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|L.O.B EP: 13-2|


「……正直、間に合わないと思ったぞ、シャマル」
「喋らない方が良いわよ、ザフィーラ。幾ら盾の守護獣と言っても、その怪我じゃもう保たないわよ?」
 言いつつ、シャマルはザフィーラに治療魔法(ヒーリング)をかける。
 少し遠く、丘の向こうで激しい砲撃戦による重低音が聞こえる。
 ……なのはちゃんは上手く距離を離してくれたみたいね。
 思うシャマルの横。
 ようやく現状に思考が追いついたヴィヴィオは。
「シャマル――さん?」
「うん。もう大丈夫よ、ヴィヴィオちゃん。――ま、この人が同じ守護騎士(わたし)に緊急通信送ってこなかったら危なかったけど」
 ぺしっとシャマルはザフィーラの頭を叩きながら言った。
「――ヴィヴィオを脅すな、シャマル」
 そう窘めながら、思う。
 ……確かに、間に合うかどうかは一種の賭けだったがな。
 ザフィーラの通信が届いたのは、シャマル達、即ちクロノ提督が率いる次元艦『クラウディア』がこの世界に降りたってからすぐだ。
 ザフィーラ達、守護騎士(ヴォルケンリッター)は管理局の通信網とは別の回線を持っている。それは次元を隔てていても通信可能なほどの強力なものだ。
 しかし。
「……何なのかしらね、黒い影≠チて。私達が同位相の位置じゃなきゃ通信不可能って相当よ? おかげで此処に来るのもギリギリだったし」
 シャマルはそう嘆息した。
 そしてヴィヴィオの頭を撫でて。
「もう怖がらなくても大丈夫よ。――――アナタのお母さんが来てくれたからね。悪い人は全部やっつけてくれるんだから」
 そうしてヴィヴィオは、ふとザフィーラの瞳を見る。
 ザフィーラはふ、と目を弓にして。
「……そうだな。よく頑張った(、、、、、、)
「あ……――――っ!」
 あ、ともお、ともつかない音で、泣いた。
 シャマルのバリアジャケットの裾を掴み、ぼろぼろと大粒の涙を流しながら。
「恐かったのね。大丈夫、アナタもザフィーラも……ちゃんと此処にいる(、、、、、)わ」
 抱きしめ、背中をさする。
 ……まだこんな小さいのに……。
 間に合って本当に良かったと、シャマルは思った。
 ザフィーラはその姿を一瞥した後、目をきつく絞り、ミッドの中心部の方へと向いた。
 ……あれほど居た周囲の黒い影≠ェいない。
 撤退した、と思っていたが、どうやらそれは違うようだ。
 ――産まれた、とギルガメッシュは言った。そして、同時に襲いかかってきた、あの絶望的としか表現できない感覚は。
 一体何を意味している――と考え、ひとまず、視界に映っている事実を口にする。
「黒い影≠ヘあそこに集結……いや、『凝縮』しているのか。シャマル、主達に連絡は取れるか?」
 質問に対し、シャマルは首を横に振ることで応えた。
「私の方も駄目ね。どうやら『夜天の書』が完全に沈黙しているみたい」
 つまり。
「はやてちゃんは今、意識を失っている状態――というわけね。シグナムの方は……多分、戦闘中。それも通信に意識を割く程が出来ないほどの、ね。全く、リィンちゃんにも繋がらないし……あの子、何やってるのかしら」
 ふぅ、とシャマルはヴィヴィオを抱きしめたまま、息を吐いた。
 ザフィーラは痛みが治まってきた右の掌を見つめて。
 ……何にせよ、まだ何も状況は分からないということか。
 つまり、最悪。
 その二文字が頭を占める。
「とりあえず『クラウディア』まで戻りましょう。まだ避難していない人も、怪我人も、大勢いるしね」
 ヴィヴィオを抱きながら、シャマルは立ち上がった。
 ザフィーラはそれに追随せず、静かに。
いいのか(、、、、)
 と、問うた。
 視線を合わせず、シャマルは言葉を作る。
 ――いいのよ、と。
「これがきっと私が存在している『意味』だから。はやてちゃんが作ってくれて、初代祝福の風(リィンフォース)≠ェ導いてくれた道だから」
 一瞬、瞑目して、ザフィーラの鋭い瞳を見据えた。
「……早く行きましょう。――ミッドチルダは放棄される」
「――――」
 そして、三人は空へと舞い上がる。
 飛行魔法。ザフィーラとシャマルの魔力光が辺りに散った。
 ザフィーラは、ふと後方を見た。
 音が聞こえる。破壊と衝撃が連続して起こっている音だ。それもかなり激しい。
 姿は見えない。小高い丘の向こうで、何が起きているのか、目視では確認できなかった。
 参戦しようとも思うが、しかし、という言葉で己を止める。
 ……怪我もあるが、何より。
 相性が悪すぎる。ギルガメッシュとなのはの戦いは、つまり砲撃戦に終始するだろう。ならば、そこに自分がいては邪魔になるだけだ。
 ザフィーラの脳裏に、先ほどのシャマルの言葉が浮かび上がる。
 ……いいのよ=Aか。
 ――この相対が、なのはにどんな結果をもたらすのか。お前も知らぬ訳ではあるまいに。
 それすらも良い≠ニ片付けることを、果たして何と呼ぶべきか。
 偽善か、理解か、親愛か、忠義か、忠信か。
 ザフィーラは己に問いかけた。


 衝突・圧壊・衝撃・激震。
 ありとあらゆる破壊が、辺りに巻き散らかされている。
 その最中。
「お、あああぁああああああ――――!」
 叫び、声を震わせているのは、なのはだ。
 頭の下で、二つに纏められた長髪と、白と青を基調にしたジャケットとロングスカート。手には紅玉を先端に配した黄金の杖。周りには、その先端を小型化させたような――ビット、と呼ばれる兵器が、十基ほど浮いている。
 高町なのはの限界突破(リミット・ブレイク)=Aブラスターモードを解放した姿だった。
 ぎしぎしと軋む体を押さえつけ、文字通り、自らの全力を以て、砲撃を撃ち続ける。
 ブラスタービットも全面展開させたその数は、一度に五十を超える。
 桃色の魔力光を放つ中距離誘導射撃魔法(アクセル・シューター)≠ェ空間を激震させ、破壊を生む。
 だが、それは攻撃のためではなく。
 ……押し込まれる……!
 むしろ、防御のためだった。
「――――は」
 口元を歪ませ、笑みを浮かべるのは、黄金の王ギルガメッシュだ。
 正面には砲撃の嵐と――それに拮抗するようにぶつかりあう宝具の嵐があった。
 ほう、と感嘆の息を漏らし。
「やるではないか。あの時とは段違いだ。ならば、これではどうだ?」
 ぱちん、と指を鳴らし、更に宝具を叩き込んだ。
「……――――っ!」
 激突が加速する。
 なのははその追撃に対し、砲撃を重ねるが。
 ……処理が追いつかない……!
 その全てを破壊することは出来ず、幾つかの宝具がなのはの体に叩き込まれた。
 右肩と左足に刃が食い込み、血飛沫を上げる。
 なのははそれを魔力で強引に弾いて。
「お――――!」
 途切れさせないよう、砲撃を間断なく撃ち込み続ける。
 甲高い廃莢の音が、連続して響いた。
 ――この砲撃戦、なのはは圧倒的不利な立場にあった。
 ギルガメッシュの宝具――それは全て概念℃揩ソの武具である。
 一つ一つがあらゆる伝承の『原型』であり、それも紛れもなく本物である。
 本人が担い手でない以上、効力は幾分か落ちるが、それでも神話の時代、英雄を生み出した伝説級の宝具だ。
 なのははそれに、己の魔法を食い込ませ、強引に破壊する。
 概念≠フ解析・浸食・分解・無効化。概念≠ネどの意味を持つ対象物に対する『無力化(ネゲイト)』の魔法だ。
 だが、この魔法は、『無力化(ネゲイト)』する過程(プロセス)は対象によって、幾らでも変化する。
 そのため、複数同時に『無力化(ネゲイト)』する場合、その処理は非常に複雑なものとなり。
 ましてそれが伝説級の宝具ともなれば、一気に難易度は跳ね上がる。
 そして、ギルガメッシュの宝具はそれこそ無数に近い。
 いちいち解析を行わなければならないなのはと、ただ撃ち出すだけで良いギルガメッシュ。
 つまり――この勝負は圧倒的になのはが不利なのだ。
 ……ある程度、過程は共有出来るとはいえ……流石にこの量は多すぎる……!!
 ブラスターモードによる強化(ブースト)≠ナ、力任せに『無力化(ネゲイト)』しているが、それも限界はある。
 魔力量、カートリッジの弾数。どれもジリ貧だ。
 ――――限界があるのは、それだけではなく。
「……っ!」
 ぎち、と軋む音が体の中から響いてくるのを、なのはは聞いた。
 いっそのこと砲撃ではなく、障壁(バリア)に切り換えようか、と思うが。
 ……駄目だ。それじゃあ、幾ら経っても反撃できない。
 結局の所、ギルガメッシュを打倒するなら、砲撃戦に打ち勝たねばならないという事実が、どうしようもなくなのはを打ちのめす。
 それも。
 ……――攻撃を与える時は、必殺の一撃でなければ意味がないのよね……!
 先ほどザフィーラが与えた肩口の傷は、もう完治していた。ギルガメッシュの治癒宝具のせいだ。
 ソレを使った時の言葉がなのはの頭にいまだ残っている。
 『身体を治癒する』という伝承が幾つあるか分かるか?≠ニ、そういう確信の問いかけだ。
 体の悪いところや怪我している所を『治す』伝承なんて、それこそ山のようにあり。
 それは伝承に準ずる宝具もそれだけあるということだ。
 つまり、ギルガメッシュを打倒するのが可能な攻撃は。
 ――――(コア)≠潰す事の出来る、一撃だけ。
 その絶望的なまでの結論を、再び頭で反芻させた。
 ……だけど、下がる訳にはいかない。私が私を貫くためにも。
 だから、なのはは問うた。

「アナタは――何故戦うの?」


 ――ぱん、と金属が弾ける音が生まれた後、状況が動から静へと移った。
 破壊の痕はそのままに、瓦礫と白煙が辺りに散る中、二人は距離を開けて正対している。
 弾幕は止み、ただ静寂が空間を支配する。
 口火を切ったのはギルガメッシュだ。
「王でもない雑種の女が、我に問答を仕掛けるか。――許そう。たまにはこのような戯れ言も悪くはない。何故戦うのか――か」
 ふむ、と頷き。
「――――この世界では単なる蹂躙のことを戦闘≠ニ呼ぶのか?」
 口の端を吊り上げ、そう返した。  ぎし、となのはは強くレイジングハートを握りしめる。
 吐き出すように紡ぐ言葉は。
「……それでも。その行動には何らかの理由があるはず。何故、アナタは私達の世界を――壊そうとするの?」
 聞く瞳は虚ろで、ギルガメッシュを見ていなかった。
 ギルガメッシュはそれを一瞥すると、――は、と口の端を吊り上げた。
「――くだらない。理由など、それで十分だろうよ。今まで様々な世界を巡り歩いてきたが、我が支配してやってもよい(、、、、、、、、、、)と思える世界は一つたりとも無かった。我は王だが――そこまで面倒見てやる気もない。要らない世界(もの)は、切り捨てるのが一番効率が良い。
 ――その中でも、この世界は群を抜いた滑稽さだ。我は王だ。人形劇(ギニョール)の繰り手になる気はない。最初は物珍しかったが、所詮は全て茶番劇(にせもの)。こうも下らない劇ならば、舞台ごと引き払って貰うのが我に対する礼儀というものだろう?」
 面を上げ、なのはを見下し。
「――――これが我の理由だ。さて、それで、どうするつもりだ(、、、、、、、、)? 英雄気取り(まがいもの)よ」
 は、となのはは息を吐く。
 その瞳は、一種の諦観で満ちていた。
「戦うよ。それしかないのなら、私は……!」
 ……それしかない――か。
 ギルガメッシュは嘲るように笑う。
「話し合いで全て解決するとでも思っていたか。分かり合える(、、、、、、)、と。――そんな綺麗事を、本気で信じているのか」
 いや。
「信じている振りをしているだけ――か。信念も信義も、綺麗事すら信じ貫くことが出来ず。心底紛い物だな、お前は」
 笑みは失われ、唾棄するような顔で、ギルガメッシュは言い放った。
 そして。
「我も聞こう。――お前は何のために戦っている? 何もかもを信じないお前は、一体何を目的に戦っているのだ」
 ――――その問いは、いつか高町なのはを喰い殺そうとした言葉だ。
 なのはは、自身の胸が軋む音を聞いた。
「私のことを――そうやって(、、、、、)呼ぶということは、アナタはあの時のことを知っているんだね」
 聖王教会、中庭での会話。高町なのはの闇を解体した、あの会話だ。
 ギルガメッシュは答えない。ただ無言の肯定を返すだけだ。
「――そう。そうなのね。やっぱり(、、、、)、あの女の人が」
 全ての元凶――と口にして、僅かに瞑目した。
 目を開ける。
 そこにいるのはギルガメッシュであり、言峰綺礼であり、衛宮士郎だった。
 彼らは口を揃えて、こう問うている。
 ――どうして戦うのか、と。
 なのははそれに正対し、はっきりと瞳を見据え。
 ……あの時返せなかった答えを、今、返すよ……!
 その答えを。

「――――今までの自分を(、、、、、、、、)嘘にしたくないから(、、、、、、、、、)
 私が歩いてきた道のり。積み上げてきたモノを、偽物にしたくないから。例え私が紛い物でも――救ってきたモノは確かに本物で。
 それは正しいモノだと、いつだって胸を張っていきたいから」

 ――救えたモノがある。救えなかったモノもある。
 仮面を被り、醜い自分に蓋をした偽物の英雄だとしても、それは確かに『在った』ことだ。
 始まりは罪の意識で、全ての行動は、自分で自分を救おうとした、そんな偽善で傲慢な行いだとしても。
 ……この掌に残ったモノは、本物だと思うから。
 そうだ。
 多くのモノを無くして、沢山のモノを零してきた。
 それでも――その道のりを否定してしまえば。
 救われたモノ、救えたモノ。その全ても否定することになる。
 それだけは嫌だ、と強く思う。
 だから。
 例え、どうしようもなくみっともなくて。
 例え、避け得ない孤独な破滅が待っていても。
 例え、何もかもを失って。

 みんなにきらわれることになったとしても――――

「この道が。――今までの自分が、正しかったって信じてる」

 始まりが、どんなに醜くて紛い物だとしても、その過程に一点の曇りもないのならば。
 それは、決して顔を伏せるモノではないと信じている。
 何より。
 ……こんな紛い物(わたし)に、愛していると言ってくれた人が居る。
 この人は。
 この人だけは。
 絶対に、裏切りたくないから――――
「私は、このやり方を貫き通す。幾ら偽善で、傲慢で、紛い物だとしても――私は私のやり方で戦う……!」
 静かに、だが力強くなのはは言った。
 今までずっと答えられず、逃げてばかりいた問いに、はっきりと答えた。
 ようやく得られた『答え』。それを胸を張って答えることが出来た、となのはは誇らしげに思った。
「……仮面(まちがい)を否定するのではなく、あえて肯定するか。分かっているか? それは矛盾だと。目的の前に行動がある。未来の前に過去がある。そんなものを戦う理由と語るのか、女」
 なのはは静かに苦笑する。
 確かに、これは矛盾だ。
 理想の為でもない。信念があるわけでもない。
 人を救うでもなく、自らを救うためでもなく。
 ――――今までの自分(まちがい)を肯定するために戦う。
 未来のために行動するのではない。過去に向かって駆け抜けていく――それは確かに歪んでいる、と自覚する。
 あの時、ユーノはもう仮面を被らなくても良いと言った。
 それはきっと本当で、とても綺麗で尊い言葉だ。
 だけど。
 ……でもね、ユーノ君。それ(、、)も私なんだ。周りから良い子(えいゆう)≠ニ呼ばれるための、そんなどうしようもない仮面(じぶん)だけど。
 それを間違いだと決めつけてしまったら、きっと、今まで自分が手に入れてきたモノまで間違いになってしまう。
 ……ユーノ君。私はアナタのことを――間違いにはしたくないんだ。
 だから。
 決めたのだ。
 ――戦うと。そのために戦うと。

 例え、その戦いが。
 これで最初で最後になろうとも――――

「そうだよ。これが、私なんだ。――今まで偽善を押し通してきた、その全てに報いる為に、私は私を貫き通す」
 ギルガメッシュは、は、と笑いの息を漏らし。
「紛い物を貫く――か。偽善もそこまでいけば、一つの道理か。ならば足掻け、命を賭けろ。ひょっとしたら英雄気取り(まがいもの)も、英雄(ほんもの)に化けるかもしれんぞ。
 ――見せてみろ。せめて我を飽きさせぬ程度には楽しませろよ、女……!」
 言って、瞬間。
 宝具と砲撃がぶつかり合い、再びの弾幕戦が開始された。


 金属が砕ける。砲撃が舞い散る。
 激突が何十にも続き、衝撃が音の連なりとして響く。
 ぎしり、と軋む音が体の内から聞こえるが、なのはは無視して。
「――――ぁっ!」
 叫んだ。
 同時、三桁にも届くほどの魔力球(スフィア)が形成され。
双重砲撃(ダブル・インパクト)――」
 行け(シュート)、という声と共に、最速砲撃魔法(ショートバスター)中距離誘導射撃魔法(アクセルシューター)の複合砲撃を行った。
 激突――――
 ど、という轟音が響き、二人の周囲に破壊を撒き散らした。
 それが連続する。
 なのはが宝具を打ち砕き、その間に、ギルガメッシュが宝具を射出する。
 鋼の残滓と桃色の燐光が生まれ、弾け、混じり合い、そしてまた生まれる。
 一つ激突が生まれる度に、衝撃が生まれ、大地を捲り、穿った。
 既に二人の周囲には瓦礫すらも見あたらない。真っさらな荒野と穿たれた大地がある。
 遠く、ミッドの首都、クラナガンから広がる黒い影≠背景として、二人は弾幕をぶつけ合っていく。
 だが――その天秤は均等ではない。
 ……駄目だ。どうやっても――押し負ける……!
 自らの限界突破(リミット・ブレイク)=\―ブラスターモードを解放しても、まだギルガメッシュの弾幕には届かない。
 あくまで放った宝具に対して、砲撃を撃ち返すのが精一杯だ。
 前回戦ったときは力試しのつもりだったのだろう。ギルガメッシュの弾幕に対し、今、なのははついていくだけで精一杯だ。
 それでも砲撃は緩めない。
 僅かでも隙を見せれば、自分は串刺しになるだろう。
 だから。
 ……今は耐えるしかない……!
 相手の隙が出るまで、ひたすら持ちこたえるしか手段はない。
 そんななのはを見て、ギルガメッシュは落胆の息を吐く。
「――この程度か? 我の前で、あれだけの大言壮語を吐いておきながら、こんな遊戯(、、)を続けると? ――無礼者が。偽物ならば偽物なりに、手慰み程度には我を楽しませて見せろ――――!」
 言葉と共に、弾幕が加速した。
 更に激突が激しさを増す。
「――――っ!」
 ……言ってくれるよ……!
 ぎしり、と力を込め、レイジングハートに思念を送る。
 それに僅か抗議の念が来るが。
「やるしかないよ。このままじゃジリ貧だ。――なら」
 賭けるしかない。あちらが、まだこちらを見下している内に。
 言って、魔力が弾けた。
 廃莢の音が加速し、莫大な魔力がレイジングハートに叩き込まれる。
 残弾、全てを注ぎ込んで。
「行くよ。――ディバイン」
 『Divine Buster Extend』と、無機質な声と共に、桃色の燐光が弾けた。
 今までに増して巨大な衝撃が、魔法陣と共に、なのはの前面に展開された。
 勢いよく割れる宝具の数々。そこに。
「バスターぁ――――!」
 高密度に圧縮された集束型砲撃魔法(ディバイン・バスター)が。
 同時、十の数を以て(、、、、、、)、撃ち放たれた。
「――!」
 僅かにギルガメッシュが目を見開いた。
 十の砲撃は暴れ狂うようにのたうち回りながら、撃ち出された宝具を薙ぎ払っていく。
 それらは集束せず、外に飛んでいこうとするが。
 ……っ!
 なのはが左腕で突きだした右腕を掴み、一声。
「お願い……行って――――!」
 叫ぶと、まとまり、螺旋のように絡まり合いながら、ギルガメッシュへと突っ走った。
 迫り来る宝具を物ともせず、空気が割れ、激震し、その軌跡で大地が捲り上がる。
 鋼が砕ける音を連続させながら、更にその音を置き去りにし、両者の間にあった絶対領域を駆け抜ける。
 そして。

 黄金の鎧諸共、ギルガメッシュを吹き飛ばした。

 爆散し、鎧が砕け、四肢が千切れ飛ぶのが見えた。
 次に来たのは衝撃だ。大地が穿たれ、瓦礫が宙を舞い、まるで隕石が落ちたかのような状況。
 その中心点に――――血痕が、確かに視認できた。
「……これは」
 やったの――だろうか。
 あの黄金の王を。英雄王を。ありとあらゆる英霊の頂点にいる王を。
 倒すことが出来たのだろうか。賭に勝ったのだろうか――と、なのはが疑問した時だ。
 白煙が爆撃の中心点から、たなびいているのが見えた。
 ……あれは……。
 先ほどのディバイン・バスターによるものではない。爆煙というものは、もっと濁っている。
 そもそも。
 あんなに真っ白い(、、、、)煙など有り得るのだろうか――――
 は、と気付いた。
 辺りに漂う、線香のような、この『匂い』は。
「まさか、反魂の――――」
 香、という言葉は続かなかった。
 パチン――と。
 白煙を吹き飛ばすように、数多の宝具が再度なのはを襲った。
 反射的に砲撃を撃ち放とうとするが。
 ……装填(リロード)、間に合わない!
 既に残弾は撃ち尽くしている。
 ギルガメッシュの油断に油断した(、、、、)己を悔やむのも一瞬。

 展開させた障壁(バリア)をぶち破り、なのはに宝具が叩き込まれた。

 剣が、刀が、槍が、鎚が、ありとあらゆる刃と鋼が、全身を打ちのめしていく。
「ぁ――ああぁあああああああああああああああ!!」
 全身から血を飛沫(しぶ)く、その最中。
「……残念だったな。お前の言葉(ほうげき)は、我の四肢には届いても、(コア)を潰すには至らなかった。
 ――――所詮、何を言おうとも、英雄気取り(まがいもの)に過ぎなかったということか。まぁ少しは楽しめた。我にここまで宝具を使わせたのは、この世界ではお前が初めてだ。誇りに思い、死んでいけ」
 乱れた髪を掻きながら、つまらなさげに呟くギルガメッシュの姿を見た。
 全く意味のない砲撃ではなかった。上半身の鎧は完全に砕け、下半身と僅かに手甲が残っているような状態だ。
 だが――鎧は砕けても、ギルガメッシュの体躯には疵一つ付いていなかった。否、残っていなかった(、、、、、、、、)
 ――蘇生の宝具だ。
 ギルガメッシュを倒すには、一撃で(コア)を潰さなければならない――――
 それを理解していながらも、僅かな油断によって、なのはは全身を襤褸雑巾のようにしてしまった。
 後悔すら追いつかないほど、何もかもが手遅れだった。

 ――ばしゃん、と、なのはがその体を血の海に沈める音を、ギルガメッシュは聞いた。

 き、という甲高い金属音が連続した。バリアジャケットの中にあった、まだ装填していないカートリッジが落下した音だった。
「死んではいない――か。ふん、急所だけは避けたか。そのしぶとさだけは、英雄(ほんもの)だな。――英雄気取り(まがいもの)
 嘲りの瞳でなのはを見る。が、その口は笑っていない。
 ……この程度か。くそ、これでは固執した我が滑稽に見えるではないか。まぁ所詮、雑種以下の道化に過ぎないか。
 視線の先からは最早魔力すら感じ取れない。もうギルガメッシュはなのはに対して、興味を失っていた。
 対し、なのはは、それでもなお立ち上がろうとする。
 レイジングハートを杖にして、力が入らない四肢を支え、強引に立ち上がろうとするが。
「が――はっ」
 吐血の勢いで崩れそうになる。
 それでも何とか力を込め、己を支える。
 ギルガメッシュは醜い、と呟き。
「わざわざ我が手を下すまでもなかったな。……お前はそこで見ていろ。己が守るこの世界が――自分ごと(、、、、)暴虐の悪意に喰われる様をな」
 そのまま、足を首都の方へと向けた。
「――――」
 それを最早意識も虚ろな瞳で、見る。
 思うのは。
 ……駄目だ。この男は、この男だけは、今倒しておかないと……!!
 こうして一対一で対峙することなど、もう無いだろう。今の状況はほとんど奇跡、とも言える。
 もしここで逃がし、己が生還し、再度相対したとしても――それは恐らく誰かを巻き込んでいる状況だ。
 恐らく、という言葉を使わなくても、人は死ぬだろう。誰も巻き込まないなど不可能だ。
 この一瞬を除いては。
 しかし、同時に。
 それだけでなく(、、、、、、、)
 ――――ほ、と安堵の吐息が漏れているのを、なのはは自覚した。
「あ――――」
 生きて帰れる(、、、、、、)。何も失わず、あの人の元へ。
 代償は、きっと誰かの命。
 誰かを犠牲にして、あの人の元へ帰る。
 英雄ではなく――ただの女として――――
 ああ、だけど。
 それは。
「……そういう、ことか」
 気付いた瞬間、笑みが零れた。
 戦う理由。生きる意味。
 ……色々理由はつけたけど、それは結局、全部屁理屈だ。
 私は、ただ単純に。

無くしたくない(、、、、、、、)、だけなんだ」

 縋り付いた仮面も、手に入れた力も、称号も、友達も、仲間も、戦友も、部下も、上司も、恋人も。
 日常も、非日常も、平凡も、非凡も。
 それら全てを無くしたくない。
 自分が手に入れたモノを、手放したくないだけだ。
「ああ――何だ。私、何も変わってないじゃない」
 あの日、あの時。
 自分のせいで、誰かの幸せを奪った瞬間から。
 原罪を背負った、あの瞬間から。
 何も、変わっていない。
 傲慢で、自己中心的で、押し付けがましくて――――
 ――――それを誰よりも醜いと叫んだはずなのに――――
 苦笑する。
 ならば、今までの自分は何だったのだろうと。
 仮面なんて初めから無かった。
 それも『高町なのは』の一部分に過ぎない。
 全ては空回り。ぐるぐると同じ所を回っていただけで、自分は結局、初めの場所へと戻ってきてしまった。
 これを滑稽と言わず何と言う。
 だけど。
 ……何でだろうね。何で、こんなに気分がいいんだろう。
 きっと、これから自分は何もかもを無くす。
 掌の中に残るモノは僅かで、それすら指の合間から零れ落ちていくだろう。
 全てを無くしたくないと望み、でも、これから全てを無くしに行く。
 それは矛盾だろうか――と、なのはは己に問うた。
 ……違う。――違う!
 否、という強い想いが、なのはを奮い立たせる。
 何故、戦うのか。
 何故、何もかもを望む癖に、何もかもを失う道を征くのか。
 何故、過去の自分に執着する癖に、それをわざわざ捨てようとするのか。
 ――そして、何故、そのことを心地良いと感じているのか。
 それは、きっと。
 ……無くしに行くからじゃなくて。

「――――返しに行くんだ(、、、、、、、)

 だから、自分は、此処に立っている。
 だから、自分は、此処に立っていられるんだ。
 それが、きっと、自分が此処にいる意味だから――――

 さぁ、返そう。

 あの時、あの人に貰った勇気の心と、優しさを。
 今、ここで。
 『夢』を叶えてくれてありがとう、と呟いて。

「ブラスター・リミット・4th(ファイナル)=B
 コード<innocent starter>――解放」

 瞬間、ぐるりと世界が反転した。

* * *


 空間があった。
 白い空と、白い大地。互いに溶け合い、地平線は見えない。
 遠近さえ判別しない空間で、なのはは歩いていた。
「……ここは」
 ぐるり、と見渡して、――うん、と呟いて、一度頷く。
「――久しぶり。レイジングハート……で、いいのかな」
 問いかける視線の先、小さいなのは(、、、、、、)が座り込んで笑っていた。
 『彼女』は立ち上がって、振り向いて。
「うん、なのは……じゃなくて、ご主人様(マイマスター)って呼んだ方がいい? 『アレ』はあくまで表層的な人格だけど、確かに『私』でもあるしね」
 なのはと同じ顔、違う声(、、、)で笑った。
 ふ、となのはは嘆息して。
「相変わらずだね、『私』」
「そうだよ、『私』。それはアナタが一番知っていることでしょう?」
 何もない、白い空間に笑い声が飛び交った。
 そして一頻り笑い合った後、『彼女』はなのはの瞳を見上げて。
「……本当にいいの?」
 と、眉を浅く立てた真剣な表情で問うた。
「答えなんて、アナタなら分かってるでしょう?」
 なのははそれに微笑みで返す。
 『彼女』は苦笑して。
「そうね、アナタはそういう人だったものね。本来なら、最終安全装置(こんなせかい)なんか不要なんだろうけど」
 た、と『彼女』はその小さな体を回し、踊らせ。

「ねぇ、一つ聞いても良い? ――アナタは、今、幸せ?」

 花咲くような笑みを浮かべた。
 その笑みの意味を理解したなのはは、僅かに眉を下げた表情を浮かべる。
「分からない。私が幸いを得ていたかどうかなんて――まだ分からないよ。きっとそれは最後の最後に分かることなんだと思う」
 だけど、
「――――私は、とても楽しかった。そして、だからこそ、これからも楽しさを得ていくことが出来るんだ。全部アナタのおかげだよ。――ありがとう」
 自らの相棒に、俯くことなく、はっきりと言葉を作った。
「逆に申し訳ないと思うよ。私はこれからも幸いへの道を行く。でも、本来は(、、、)、アナタの『役割』はもっと違うものなんでしょう?」
 それを果たせなくて、その『力』をこんなところで使って、ごめんなさい――と頭を下げた。
 『彼女』はくすり、と笑い。
「いいのよ。これも(、、、)、必要なことだから」
 断言系の言葉に、なのはは僅かに疑問を作った。
 瞬間――知覚した。
 この空間は一種の自閉空間だ。封時結界と同種だと見ていい。
 時が停滞してるのではなく、時間という連続面の最中の空白(ブランク)
 だからこそ、『観測』出来た。
 ここでは過去も未来も同じ事だ。過去を思い出せると言うことは――つまり、未来も垣間見えるということだ。
 流れ込むように見える、そのビジョンは――――
「――!」
 暴れ狂う黒い大竜と、それに立ち向かう灰色のような自分の姿(、、、、、、、、、、)
 ……もしかして、これが本来の――――
 『彼女』は俯いて。
「ねぇ、意地悪な質問をしていい? もしこの世界に――『彼』がやってこなかったら、高町なのははどうなっていたと思う?」
 ――『彼』、と告げられて、脳裏に浮かぶのは正義の味方と名乗る、あの青年。
 つまり。
「そういうことね……。世界はフラクタル――ということか」
「アナタには、アナタ()には悪いとは思っている。これは私達の罪。傲慢なる一つの願いから生まれた七つの大罪=\―それをアナタ達に押しつけるのは、やはり私達の傲慢だから」
「ううん。世界がフラクタルだということは、私の世界は『私の世界』として続いていくということ。だから、『次』の私には悪いとは思うけど、ね。『アナタ達』がいなければ、魔法(このちから)も、この世界も生まれることはなかったし、私はとても感謝しているよ」
 きっとこの記憶も、元の空間に戻れば失ってしまうのだろう。
 『以前』とは状況が違う。ただでさえ断片しか残らなかったのだ。だとすると、今回のこの別れも――――
 それが悲しくて。
 何故だか、とても、悲しくて。
 なのはは、涙を零した。
「そんな顔しないで。もう会うことはないと思うけど、それでも想いは継がれる。私達の想いも、勇気の意味も、ずっと続いていく」
 だから、
「今は、アナタのやるべきだと思うことをやりなさい」
 『彼女』は涙を流すなのはの頬を撫でた。
 その姿は、なのはが気付かぬ間に変えていた。
 身長は伸び、年は二十後半だろうか。今のなのはよりも年は上だ。
 サイドに伸びたポニーテールを揺らし、白衣を着込んだその姿で、『彼女』はなのはを抱きしめる。
 なのはは、涙を流しながら。
「――ねぇ、アナタは幸せだったの?」
 と、『彼女』が自分に投げかけたのと同じ質問をぶつけた。
 『彼女』は目を伏せて、笑い。
「ええ――とても、とても幸せだったわ」
 そして、
「勿論、『アナタ』と共に戦えたことも――その幸せの中に入っているわ」
「っ――――!」
 なのはは泣いた。子供のように、母親に縋り付くように、泣き叫んだ。
 今まで共に戦ってきた相棒に、はっきりと認めて貰えたことが、嬉しくて、悲しくて、泣いた。
 そうして、一頻り泣いた後。
「私――――行くよ。私だけの幸いを得に」
 宣言して、『彼女』の体を離し、一歩を前に出した。
 振り向かず、ただ真っ白に広がる地平の一点を目指して、歩く。
「無くすんじゃない。与えられた優しさを返すために」
 『彼女』はそんななのはの姿を見て、くすりと笑い。
「それで、何もかもを返した、その後は――アナタはどんな(みち)を行くの?」
 と、明るく、そんな問いを投げかけた。
 なのはは振り向く。
 そこには――『彼女』の姿と共に、様々な人の姿があった。
 黒髪の女の子、四枚羽根の妖精、大きな狐、宙に浮かんでいる金髪の少女、他にも背後に大勢の人がいる。
 見知った姿もあるが、しかし、それらは全部違う人(、、、)だ。それをなのはは知っている。高町なのはは知っている。
 人垣の中心には『彼女』の姿がある。横にいる黒髪の青年に寄り添いながら、幸せそうに微笑んでいる。
 なのははその姿を――素直に羨ましいと思い、笑って。
「アナタなら、知ってるでしょ? 私、本当はね……」
 『彼女』は僅かに目を見開いて、こくりと頷き。
 なのはと同時に空を見上げた。
 そこには――――何もない白ではなく、ただただ真っ青な空が広がっている。
 二人は朗らかに笑って。

『――――お母さん≠ンたいに、なりたかったんだ――――』

 瞬間、ぱりんとガラスが砕けるような音と共に、空間が割れた。

* * *


 ドクン、と紅の宝玉が鼓動した。
『コード、承認:システムNo.159<U.T.O.B>:起動します』
「リンカーコア、吸気開始……!」
 支えにしていたレイジングハートの機殻(カウル)が展開される。
 ばつ、という音を連続させ、留め具を外すように杖の表面が剥がれていく。
 ばぎん、と甲高い金属音と共に、先端の紅玉が外れ、なのはの頭上へと上がっていく。
 レイジングハート。封印された真の機能(、、、、)が、鼓動の加速と共に解放される。
「何だ……?」
 異変を感じ、ギルガメッシュは振り向いた。
 そこには――この地域、否、この惑星(、、、、)の魔力が、全て渦を巻くように、なのはの元へ集束していく視界がある。
『続いてコア・システム解放を行います:反転領域(セフィラ)形成開始:パスワード要請』
「我、指命を受けたもうものなり」
 言葉を紡ぐ瞬間、頭上に掲げられた紅玉に『Daath』と表示される。
 それを切っ掛けに、次々と円形が空間に生成されていく。
「契約のもと、その力を解き放ち給え」
 血だらけの体で、レイジングハートで己を支えながら、言葉を紡いでいく。
 がは、と吐血する音が混じらせながら。
「――――貴様」
 指を鳴らし、ギルガメッシュは容赦なく宝具を叩き込む。
 が――暴風雨のような魔力の嵐によって堰き止められ。
「……!」
 宝具一つ一つの先端に魔法陣が形成され、その全てが砕かれた。
「風は空に、星は天に」
 紅玉を中心軸として、空中に次々と円形が穿たれていく。
 それは八角形の中心に二つの丸を置き、個々を線で繋ぎ、更に下に伸びる。
 八角形の頂点と、中心に二つ、下に一つ、丸を置いた形が空間上に、平面的に形成され行く。
 同時、枝を生え伸ばすように、力を持った記号と文字が、全体に刻まれていく。
 ――それはまるで一本の樹にも似て。
「そして不屈の魂はこの胸に」
 ギルガメッシュの宝具を物ともせず、魔力は紅玉と、なのはに集束していく。
 体の傷は瞬く間に癒えていき、バリアジャケットがその姿を変える。
「この手に『魔法』を」
 紅玉が外れたレイジングハートを掲げる。
 祈るように瞑目するなのはのリンカーコアに、莫大な魔力が叩き込まれ、瞬時、全て魔法に変換されていく。
「レイジングハート、力を……!」
 そして、何もかもが光の渦の中へと墜ちていき――――

「――――私のお願いを、どうか叶えて下さい(リリカル・マジカル)=v

『パスワード確認しました:反転領域(セフィラ)形成完了:完全魔法式<生命の樹(セフィロト)>起動確認しました:無限光に接続――完了:ブラスター・4thモード<innocent starter>:――――完全起動(イグニッション)

 ――――ばきん、と光の渦が弾け、なのはの真の姿(ブラスターモード)が完全解放された。

「は、ははははは! それが貴様の命を賭けた本気というわけだ! 面白い! 面白いぞ、英雄気取り(まがいもの)!」
 にたりと、ギルガメッシュの口元が狂気に歪んだ。
 その視線は、姿を変えたなのはに注がれている。
 長い栗色の髪が揺れている。青と白を基調とした全体のイメージは同じだが、各所のデザインが大きく変わっている。
 両の手と、鋼の片羽がついている両足に青のラインが入った装甲がある。左右腰のハードポイントからは刃物のように鋭く張っている大型の加速器がある。それぞれ三枚ずつ対になっており、フリップから桃色の魔力光を放っている。
 背中には同様の加速器――翼の如き重なりが、大小二対ある。
 肩口にも装甲が展開されており、突き出された胸の中央には蒼い宝石がはめられている。
 何より目に付くのは、なのはの肌にひび割れのように走る魔力光のラインと。

 ――――周囲に浮遊している、五十を超えるブラスタービット。

 形状も鋭くなっており、ビットというより(ファング)に近い。刃のような形状が重なって、まるで翼のようになのはを包み込んでいる。
「行くよ……レイジングハート。何もかもを始めるために、何もかもを終わらせよう」
 言って、己が相棒を握る。それは自身の姿とは逆に、シンプルな構造になっていた。
 カートリッジシステムはオミットされ、あくまで長杖としての形状がそこにある。紅玉は分離しており、杖の周辺を舞うように浮遊している。
 じじ、と燐光を全身から散らしながら。
 なのはは自身の変化に驚く。
 圧倒的な魔力量、数を増やしたブラスタービット、形成される魔法の完成度。
 驚くのは、そのどれでもなく。
 ……この感覚は――――
 感じる世界が激変していることだ。
 光、風、熱、感触、匂い。ありとあらゆるものが五感を超え、まるで世界と己がダイレクトに繋がっているように感じる。
 五感が十にも二十にも増えた感覚だ。動かす、という意識はなく、ただ想うだけで世界が変わり行く。
 ふ、とギルガメッシュは笑い。

「よく来た。――――ここが、貴様が望んだ英霊の領域だ」

 ぱちん、と指を鳴らし、今までとは比較にもならぬほど大規模に、宝具を展開させた。
 なのはは目を見開く。展開された宝具にではない。ギルガメッシュの言葉に、だ。
「英霊の……領域」
「そうだ。お前は境界を超えた。人の限界を超え、我々が立っている領域に足を踏み入れたのだ。まるで自分と世界が繋がっているように感じるだろう? あらゆる感覚を超えた、世界への『理解』。技術でも、想念でも、宝具でもない。その理解を持った魂こそを――人は英霊と呼ぶのだ」
 力だけでは到達出来ず、また信念だけでは至るまでに死んでしまう。
 『英霊の領域』とは、つまりそんな場所だ。
 世界と契約――または繋がることで一段階上に昇華した人の魂。
 それこそが英霊の資格であり、サーヴァント達は当然のように全員この感覚を持っている。
 ふん、と笑みを更に濃くして。
「……よもや本当に、紛い物がこの領域まで来るとはな。これだから世界は面白い。茶番劇も技巧を凝らせば本物になる――か」
 なのはは瞑目する。
 視界が消えるが、世界は消えない。全ては自分の中にある(、、、、、、、)
「アナタ達は、こんな世界に居たのね……」
 ――勝てないはずだ、となのはは苦笑した。
「さて、それで境界を超えたお前はどうする。何を望む。何を以て、我と相対する」
「そんなの、決まってるよ」
 ご、と魔力が膨れあがり、爆発のように弾けて跳ねた。
 それだけで瓦礫が砕け、空気が震え、空間が軋みを上げる。
 なのはは、す、とギルガメッシュを指差し。
「アナタの言う偽善。私はそれを、押し通すだけだ……!」
「は、言ったな、英雄気取り(まがいもの)ぉ!」

 そして、世界が加速し、全てが爆ぜた。


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