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―――許せない。
思うのは、ただそれだけだ。
強くなるために。
ティアは、そのためだけに、努力した。
自らの夢のために、特異な資質など一つも持たず、ひたすらに前を向き続けて懸命に努力してきた。
それを知っている。私が一番よく知っている。
私はティアのパートナーで、一緒にずっと頑張ってきた。
だから分かる。
ティアがどんな思いで今まで辛い特訓に耐えてきたのかも。どれだけの自主訓練を積んできたのかも。
ああ、だから。
それを、全て、粉々に打ち砕いたことが、何より許せない。
今、頭にあるのは、それだけだ。
あの光景、無慈悲にティアナを撃ち落としたが網膜にフラッシュバックされる。
あの人が考えていたことも分かる。
私達をいつも見ていてくれていたのも分かる。
……そして、優しいのも、分かる。
あの若さで、どれだけの修羅場を超えてきたのだろう?
小さな体に膨大すぎる魔力。その負担。その枷。その経験。
今まで多くのモノを見て、その果てに今の人格がある。
優しいと思う。
自分たちが間違っているんだろうとも思う。
――――だけど、それでも許せないものが、ある。
ティアナの夢、想い、努力。
その全てを――――あの人は否定した。
あの涙を。
――――断ち切った。
失敗は失敗だ。それも分かる。
それが戦場では致命的になるのも分かる。
死なせたくないという想いが、痛いほど理解できる。
でも―――だからこそ。
何故、ティアの努力、全てを否定したのか。
強くなろうと足掻く。
その想いだけは――――間違っていない。
「なのはさん……貴女はきっと正しいんだと思う」
呟く。
ごぅ、と流れる景色と風が、頬を撫でる。
見るのは、一点のみ。
武装隊のエース・オブ・エース、若手トップエリート魔導師。
――――白い悪魔、高町なのは。
自分が憧れていた、その人に。
この拳を、ぶち当てるだけを、考える。
「…………」
なのはさんは無言だ。それでも私は言葉を続ける。
「ティアも間違っているって、それも理解できる。だけど、あそこまでやる必要、無かった…………!!」
「――――あそこまで意固地になっているティアに、話すだけで分かって貰えたとは思えない。――――私の練習って、そんなに大したことない? 私って、そこまで信用無い?」
哀しげにバリアジャッケットが風に流れる。
それは――――違う。
「私は、貴女を信じていた。だからこそ…………許せない。形はどうあれ、貴女はティアの想いを否定した。そのことが、私には許せない」
「それはスバルの我が儘だよ――――って、そんなことも分かってるよね」
無論。
これは私の八つ当たりだ。
あの時、砕かれたティアの想い、努力。
――――その行き場の無い力を、ぶつけているだけ。
私はコクリ、と頷く。
「私は、不器用ですから」
「力の正しい使い方、努力の正しい使い方――――勇気の正しい意味。私は、一度間違った。それ、やっぱり伝わっていないの、かな」
ぎり、と奥歯を噛み締める。
うるさい。
うるさい。
うるさい。
そんなことは押しつけだ。
一方的に力で押しつけて、それで――――分かってくれるなどと、どうして思う。
一歩通行の想い。
一方通行の説得、理解。
そのことを、どうして、分からないのだ。
多種多様な想いが錯綜するこの世界で。
そんな無理を押し通す生き方など、弱者を喰らうことしか意味を持たない。
弱肉強食の理論。
そう。
強者は、いつだって――――弱者など、見ることはないのだ。
舞い上がる炎。
崩れ落ちる建物。
あの時、私は間違いなく、弱者だった。
――――だから、力が欲しいと願った。
弱者のための力を。蹂躙され、いつだって強者に喰われるだけの弱者を救えるだけの力を。
それが矛盾した理想だとしても。
私は、そう生きるって決めたんだ。
――――だから。
無情にも、自分の理論だけで、ティアナの想いを押しつぶした目の前の白い悪魔は。
誰だって夢見る、強くなりたいという想いを断ち切った存在は。
――――弱者を蹂躙するだけの強者は。
私の、敵だ。
「…………この世界に、正しいことなんて、ありません。重要なのは、それを使う人の想いだと思います。だから…………貴女のソレは、押し付けだ。その想いを否定することが正しいとは思えない」
「――――」
何もかも理解していると。
その瞳。その笑み。
神からの視点。見下ろすその目が――――何よりも気にくわない。
「マッハキャリバぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
私の叫び声に応え、右腕の相棒が駆動を開始する。
初弾からギアはトップに。
限界を超えて。
更に限界を超えて。
自分自身の、ありとあらゆるものを注ぎ込み――――
――――そして、臨界を突破する。
「――――そう。もう、言葉じゃ伝わらない、か。受け止めてあげる。スバルの想い、ティアの想い。それで気が済むなら、ね」
レイジング・ハートを起動させる。
そこに込められた魔力は、正にクライシス。自分の臨界を更に超える魔力を、彼女はいとも簡単に行使する。
(届かないのは分かっている)
相手にならないことなど初めから分かっていた。
Sランクの魔導師相手に――――まだ新参である自分が敵うことなど有り得るはずがない。
それでも。
それでも――――
(許せないことがあるんだ!!)
魔力量・知識・経験。ありとあらゆるものが敵わない。
だがしかし、全霊で挑めば、突き崩せると信じている。
一撃でいい。
たった一撃でいいんだ。
ティアと私の想いを込めた拳が、なのはさんの心に、届きさえすれば、それでいい。
――――そのためなら、命すら賭けよう。
「ああぁぁぁああああああああああああああああ!!」
全霊を込めた、スバル・ナカジマの拳が、高町なのはのレイジング・ハートと衝突した。
「――――ぶっっっっっっっち、抜けぇぇえええええええええええええええ!!!!!」