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「は、つくづく救えない」
「それは貴方もでしょ。馬鹿マスター」

いつもの悪態をついて、いつもの作業を終わらせた。
月下には横たわる屍は、魑魅魍魎の類だ。これらの解体作業が行われたのはついさっき。突如、彼らは湧くようにして二人に襲い掛かってきた。
「ふぅ……どうしてこんなに悪霊やらグールやらが揃ったようにやってくるのかしら。全く、汚らわしいことこの上無いわ」
白い姿のレンは唾棄するように吐き捨てる。
そんな姿を見て、黒い影のような男、七夜はく、と笑い声を漏らした。
「……何よ」
「いや何。既に気付いていることを気付かないふりしている姿が可笑しくてな。お前も理解しているだろう? 世界の因果ってやつは複雑なようで単純だ。『異端は異端を呼ぶ』――それが理の一つ。悪夢そのものが具現化した俺達は特異点そのものだ。お前、類が友を呼ぶって諺を知らないか?」
「ふん。ナイトメア≠ヘ貴方のほうでしょ。遠野志貴が思い描いた『最悪の可能性の一つ』の延長に居る存在――これが悪夢と言わず、何て言うのかしら」
影絵のような夜の街を二人は歩く。親しくは見えない。しかしどこか楽しげに会話しながら。
「は、それを言うならお前も一緒だろ? 白レン=v
「っ――――!! 貴方ね、そんな安易な呼び名は止めて頂戴って言ったでしょ! 全く……白い服を着ているレンだから白レンって、貴方正気? もうちょっとマシなネーミングセンス考え付くぐらいの頭は創ったはずだけど?」
がー、と顔を真っ赤にして、捲くし立てる白レン。
その姿が可笑しいのか、七夜はニヤつきながら会話を続ける。
「何が不満があるっていうんだ。良い名前じゃないか。――分かりやすくて、お前らしい」
「わ、私の何処が分かりやすいですって――――!!」
叫んだ。擬音にすると、フーッ!といった感じだろうか。猫が威嚇するようにレンは七夜に牙を向ける。
「何もお前が分かりやすいとは言って無いぞ? 名前が分かりやすい=Aと漏らしただけだ。それは自分で自覚しているってことか?」
「なっ――――騙したわね」
「ま、お前らしい≠チてことは、つまり結局そういう意味なのだがな」
「っつ――――――――殺すわ、間違いなく殺す。契約破棄なんて生温い。貴方にはとびっきりの悪夢を見せてやる」
その時、七夜の双眸が細まったのをレンは見た。
次に来るのは、ぞわりと毛が逆立つ感覚だ。この独特の纏わりつくような臭気は――
「――グール」
それも一体や二体ではない。ざっと見るだけでも三十体はいるだろう。幽鬼のように迫るグールはまるで雪崩れだ。まるで悪夢。常人ならば、間違いなくそう思うだろう。
だが。
「どうやらお前に殺されている場合ではなくなったぞ。やれやれ、飛び切りの悪夢というのも興味があったんだがな。……なぁ、『夢魔』」
「下品ね。けど、こいつらはそれ以上に醜悪で、不快だわ」
この二人は、それを吹き飛ばすような夢の顕現だった。
(それにしても数が多少、多いか……あまり派手にやると代行者が黙っていな――)
「志貴」
七夜の思考を遮るように、レンが声を放つ。
何だ、と思う前に、七夜はレンの――その、不敵な笑みを見た。
「……指示を頂戴、マスター=B私は貴方の使い魔なんだから、賃金分くらいは働くわよ?」
ニヤリ、としか形容出来ない笑みを顔に貼り付け、言った。
七夜は一瞬、呆としたが。
「――ああ。背中は任せたぞ、白レン=\―――!!」
言って、月光に輝く刃を手に、死の集団へと向かっていった。
白レンと呼ばれた白い少女は、それでも笑みを崩さず。
「全く、口が減らないご主人様だこと――――」
コンクリートを力強く踏みしめ、主人の元へと駆けていった。

影絵の街で、二つの影が躍る。
互いに単独では存在し得ない。故に二人で一つ。一蓮托生。
ならば今日も二人は笑いながら舞うだろう。
飛びっきりの、悪夢を振りまきながら。

カデンツァは、未だ終わらない――――

短編『White and Shadow』
――<了>

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