......Prelude of Pandra's song:
Episode.0<Side:■■■■>
パンドラの唄〜前奏曲
それは、
この世で最も哀しい女が歌う、
この世で最も悲しい
唄
* * *
0 [ 7 ]/
朱月演劇 / What does the "Red” moonlight shine on?
―――不気味なほどに、真っ赤な月が、血で赤く染まったかのように輝いている。
たったそんなことが、脳裏に焼きついて離れなかった。
浮遊する感覚。
地に足が着いていない。
胸にぽっかり穴が開いたかのような虚脱感。
――――今、現実感というものがそっくり抜け落ちている。
まるで、演劇の舞台。用意された脚本。虚飾された演出。
演劇。そう、演劇だ。
今、まさに劇はクライマックスは迎えていた。
その物語は、悲劇。
舞台の上で悲哀が奏で、涙と慟哭が踊り狂う。
壇上の主人公は二人。
ナイフを持つ王子と、倒れ伏した美しき姫ぎみ。
王子は手にした月夜に光るナイフを―――姫の胸に突き刺した。
姫はにっこり笑うとぼろぼろと砂のように崩れて消えていく。王子は血の涙を流しながら、声なき声をあげ自らの罪に慟哭する。
それは絵本の中の物語のようにありきたりな展開かもしれない。
ありきたりな悲劇で、ありきたりな物語。
しかし、いかにこの光景が幻想的であっても、これは実際に起きている夢のような『現実』だった。
夢ではない。
夢なんかであるはずが無い。
その確信は、自身に在る――――
閃光が走った。
一つの嫌な予感。
演劇。
脚本。
夢のような舞台。
整えられた物語。
これが、演劇だというならば――――
――――誰が一体、用意したものなのか。
ぞくり、と悪寒が身体を走る。
若し――若しこの状況が、ある一つの結末を誘発するものなら。
今、目の前で起きていることは、文字通り『演劇』に過ぎない。
否。まさか。そんなことは。
ありとあらゆる否定の言葉が、頭の中に浮かび上がり、演劇という単語を拒絶する。
自分は確かに自らの理念を持って思考し、行動したはずだ。そう、この結果はあくまで自分達の取った選択なのだ。だから、これが演劇であるはずがない。そんなことが在り得るはずがない……!
しかし、考えれば考えるほど、厭な予感は確信へと変わっていく。
それほどまでに、ここに至るまでの道はあまりにも出来すぎていた。展開がとても自然なために逆にそれは不自然だと理解できるほどに。
もし――――そうだとしたら。
本当にこれがナニカの結末のために用意されたのだとしたら。
だとしたら――――この劇は、一体誰が主役で誰が脇役なのか、誰が脚本を書き誰が演出したのか。
―――誰が、何のために舞台を用意したのか。
しかし、今更気付いたところで、物語は、止まるはずも無い。
加速する物語は佳境へ。
完結へと一直線に走る。
ざぁっと風が吹いた。眼に見えるのは、慟哭する王子の涙と砂になったお姫様。
そして。
―――――――――狂的なまでに残酷な、ダレカの笑顔。
果たして、それは誰の笑顔か――――――――
劇はクライマックスへ。
赤い紅い朱い、真紅の月が、全てを見下ろしている。
.......Don't end. This episode of number is No.7 "Prelude"
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