「黄昏色の詠使い」二次創作SS 短編(の断片
 『緋色の宣誓』

 「―――――お前は、私と一緒だ。その強大なる力を持て余し、いつかは処断される。出る杭は打たれる。特化した才能は周りから見れば異能にしか過ぎないのだよ」
 目の前に居る、水色の男が厳然たる声で告げた。
 「それでも―――お前は、私の邪魔をしようというのか」
 クルーエルは灼熱のような腹部を抱え、それでも決意を瞳に乗せ、言い放つ。
 「……ええ、勿論よ」
 どくどくと赤い血液が掌に感じる。出血量も過多。このままでは、死んでしまうことすらあるかもしれない。
 (―――――んなこと、知ったこっちゃないわよ)
 それでもクルーエルは、は、と短く笑い飛ばした。
 「……確かに最初は怖かったわ。自分の意志以上に湧き出る名詠、分不相応な真精―――――怖くて、誰かを傷つけてしまうことが怖くて。泣きそうになったこともある」
 「そうだ。それが力を持つモノの苦悩、業だ。並々ならぬ異能は、周りに恐怖しかもたらさない。平和ぼけしたトレミアの連中も、いつかは気付くだろう。―――――お前のソレは、いつか破滅を引き起こすということを」
 男は静かに目を伏せた。
 今、あの男は何を想っているのだろうか、とクルーエルは思考する。
 ……きっとそれは自分の想像を遙か上にいく絶望。犯罪者にまで身を落とすような絶望を、まだ若いクルーエルが理解できるはずもない。
 だが。
 「でもね」
 その絶望を。
 「それでも、こんな私でも、信じてくれる人がいるのよ」
 その昏い闇を。
 「私は、その信頼を裏切れない。私の信じている彼が、ずっと私を信じてくれるなら、私はきっと道を間違えないわ。―――――例え、私が孤独の道を歩もうとも!!」
 綺麗に、一刀両断した。
 羽が、舞った。
 幾百、幾千にも及ぶ紅蓮の羽毛が、辺りに広がる。轟、と踊るような風と共にクルーエルの周りを舞い続ける。
 男が目を見開く。
 「<讃来歌>無しに、真精を呼ぶだと―――――!?」
 紅蓮に彩る風景の中、緋色の少女は言い放つ。
 「―――――きっと、貴方にはそう言う人がいなかったのね。周りが貴方を拒絶したんじゃない……貴方が周りを拒絶した、それだけの話よ!」
 「……―――――!!!!」
 クルーエルの言葉は、刃の如く男の胸に突き刺さる。
 男は思う。掛けられる言葉を、拒絶以外の想いを以て答えたことがあったか。確かに両親に拒絶され、それ以降全ての人間が自分を排斥しようとしか思えなかった。だが、本当に、全てが、そうだったか?
 分からない。犯罪者に身を落とした今となっては、答えはもう闇の中だ。
 故に。
 「……―――――例えそうだとしても、私のやるべきことは変わらない。名詠を滅ぼす事以外に、私の存在意義は無い」
 その言葉に、クルーエルは怒りを覚えた。
 未だ燻り続ける灼熱の痛みを忘れるほどに。
 ばさり、と赤の真精が、クルーエルの元に降り立つ。
 『さぁ、クルーエル。貴方の往くべき道を私に示して頂戴』
 フェニックスが静かにそう問う。
 対し、緋色の少女は宣誓のように叫んだ。
 「フェニックス!
 ―――――アイツを一発、殴らせて!! あのガンコ馬鹿に、きついお灸据えてやるんだから!」
 「来い。フェニックスを呼び出す少女よ。私も全力を以て、その想いに答えよう。―――――リヴァイアサン」
 真精にも匹敵する伝説の名詠生物を、男は呼んだ。

 紅蓮の想いと深海の想いが今、互いに咆吼を挙げた。

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